ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】
こんなことなら、我慢するんじゃなかった。
もっと愛して、愛を注ぎ込んで、彼女の不安を拭い去るべきだったんだ。
ならばと。
遠慮なく口づけようと、華奢な顎をつかんで上向けて……
その瞳に浮かぶ涙に気づき、動きを止めた。
「……こと、ってなに……?」
途切れがちな声が、震えながら訴えた。
「え……?」
「『そんなこと』、って、何?」
「飛鳥?」
「ライアン全然、わかってない」
「何が?」
話が見えなくて、つかめなくて、チラリと苛立ちが湧く。
「あなたは王子様みたいに素敵で、パーフェクトで、いろんな女性があなたを狙ってて。でも私は年上で、平凡なOLで……一緒にいる時どれだけ不安か、全然わかってないでしょう?」
「ちょっ……僕は君にプロポーズしただろう? それでも不安なの?」
「不安よっ! 当たり前でしょう! だってあなた、何も話してくれないもの。自分の過去も、何もっ……」
過去? 僕の?
カッと頭に血が上った。
「僕が過去につき合った女性を全部、リストにして提出しろとでもいうのかい? 申し訳ないが僕には最高のフィアンセがいて、彼女以外の女性なんて記憶に残ってないから、難しいリクエストだけど。でも君が望むなら、髪と瞳の色くらい、思い出してみようか。それで足りる?」
「違うっちがっ……そうじゃなくて」
「それでも君が不安なら、そうだな、首に君の名前を彫ろうか。首輪代わりに? ネックタトゥーは相当痛いって聞くけど、構わないよ、君のためなら」
「やめてっ!!」