ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】
悲鳴のような声が響いて。
しばらく僕たちは、お互いの荒い息だけを聞いていた。
収まっていく呼吸とは反比例するように湧き上がってきたのは、もどかしい想い。
抱きしめたいのに、抱きしめられない。
伝えたいのに、伝わらない。
やるせない思いをもてあましながら、彼女から距離を取った。
「ごめん……ちょっと、感情的になりすぎた」
このままだと、1週間前を再現することになりかねない。
飛鳥が小さく、首を振る。
「ううん、私の方こそ……叫んだりして」
「今夜は、一緒にいない方がいいね。僕は書斎で寝るよ」
返事を聞かずに、踵を返した。
書斎、というより空き部屋を共用のワークスペースとして使っているだけの場所。
入るなり、閉めたドアにもたれてしゃがみこんでしまった。
ドアの向こうからは、かすかに、すすり泣く飛鳥の声が聞こえて。
ぐしゃりと髪を鷲掴み、衝動を堪えた。
なんで、こんな風になるんだろう……僕たちは。
例えば僕が、日本人だったらよかったんだろうか。
僕が日本人だったら。
君の悩みをもっとわかってあげられたんだろうか。
どうしたらいい?
どうしたらいいんだ?
誰か、教えてくれ――……