ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】
8. 別れ①~飛鳥side
一人のベッドは広くて……広すぎて。
冷たすぎて。
私は結局、一睡もできずに朝を迎え、まだ暗いうちにこっそり家を出た。
24時間営業のファーストフード店。
コーヒーのぬくもりで手を温めながら、窓際に腰を下ろした。
ふわりと上る湯気の向こうに、まだ明けきらない鈍色の空が広がっている。
暗く、永遠に続くような冷たい空だ。
苦いコーヒーの味とともに昨夜のことが蘇ってきて、私は目を伏せた。
別れ話を切り出せないまま1週間。
表面上だけの笑顔を取り繕う日々に、想像以上に疲れていて。
少しライアンから離れて過ごしたくて、雅樹からの誘いに乗った。
仕事上の打算もあった。
やっぱり彼は優秀なカメラマンだし、これをきっかけにまた一緒にやれたらいいなって。
それで、昔よく一緒に通った、新宿のダイニングバーで落ち合って乾杯して。
さっそく聞かれた。
――お前が今付き合ってる男、今日の選考会にいただろ。
――え?
――外人の、金髪の方。当たり?
――う……ん、どうしてわかったの?
――あんな刺し殺されそうな目で睨まれたら、気づくだろ誰だって。
――え、ウソっ! そんな目してた!?
――おいおい、気づいてなかったのか? あれは相当独占欲強いタイプだぞ。まぁそれだけ愛されてるってことだし? うまくいってるみたいで安心したよ。
――うまくいってる……のかな。
――なんだよ、喧嘩でもしたのか?
さすがに、ライアンの過去を巡る事情とか、もろもろは話せるはずもなく。
曖昧に笑って、ごまかした。