ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】
突然。
画面の中、彼女の動きがあわただしくなった。
ごそごそとかばんを探っている。
その拍子に、何かがバサリとかばんから零れ落ちた。
貴志が近寄って、拾ってやっている――あれは、なんだ?
『マユミだ』
「え……?」
ズームアップしようと伸ばしかけた指が、ピタリと止まった。
忍び笑い交じりの声が聞こえた。
『目印の本、出すの忘れてたらしい。ドジなヤツだな。見えるだろ、中央、グレーのパンツスーツ』
どくんっ……
鼓動が、一瞬動きを止め。
身体の一部が、キンと凍りついたような気がした。
彼女が、マユミなのか。まさか……
――当ホテルの常連であると吹聴し……
――言葉巧みに相手をスイートルームへ誘い……
――淫らな行為の後、撮影した映像を取り出し……
――ヤクザまがいの男たちと共謀して、何度も金銭を要求し……
報告書の文言が、むなしく頭をよぎっていく。
『ライ?』
いぶかしげな貴志の声が聞こえて、ガタガタっと立ち上がった。
声を、かけなければ。
それが今回の、ミッションなのだから。