ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】
「え……」
「それで……別れた。彼は子どもをとても欲しがっていたから」
でも……でも……
言葉にならない何かが、胸を衝く。
こんなところで、これ以上のこと聞いてもいいんだろうか?
この人はクライアントで……
頭の中で散々迷いつつも。
私の唇は、何かに操られてるみたいに止まらなかった。
「その方は……それで納得されたんですか?」
ショートカットの頭が、軽やかに左右へ揺れた。
「彼は何も知らないわ」
「え……?」
「嘘をついたの。私が心変わりしたと、別の人を好きになったと、思わせるような」
「どうしてそんな……っ」
テーブルの端をつかんで前のめりになる私を見て、聖母のように柔らかく、彼女は微笑んだ。
「彼は優しい人だったから、事情を知ったら、別れてくれないと思ったの。でも彼には、父親になることを諦めてほしくなかった」
自分を納得させるように、幾度か頷いて。
静かな声が、また続いた。
「別れる以外の選択がなかったかと聞かれたら……わからないわ。代理出産とか養子縁組とか……方法があったかも、って考えたことも正直ある。でもあの当時は、それがベストだと思ったの。彼の、未来のために」