ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】

結局、最後まで聞けなかったけど。
単純に考えれば、矢倉の反対ってことだろ。
矢倉は安心、じゃあ僕は……不安か。

その不安を取り除くことができたら、彼女は戻ってきてくれるだろうか。
この腕にもう一度、抱けるだろうか。

いっそ本気でタトゥーでも入れようか。
彼女の名前を……


――それだけで、彼女がそんなに悩むとは思えないんだけど。お前、他に何か、彼女に言ってないことはないのか?

他に何か?
そんなことがあれば、とっくに……


――不安よっ! 当たり前でしょう! だってあなた、何も話してくれないもの。自分の過去も、何もっ……


歩みが、徐々にのろくなる。


シンシアのことは、『話した』。
『話してくれない』ってのは、なんだ?

女性関係……じゃない、のか?
一体他に何が……


――話してないのね、上海でのこと何も。


カツン……
足が、止まった。

まだ、あったじゃないか。

僕の過去。
それを僕はまだ、彼女に話していない。

< 167 / 343 >

この作品をシェア

pagetop