ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】
結局、最後まで聞けなかったけど。
単純に考えれば、矢倉の反対ってことだろ。
矢倉は安心、じゃあ僕は……不安か。
その不安を取り除くことができたら、彼女は戻ってきてくれるだろうか。
この腕にもう一度、抱けるだろうか。
いっそ本気でタトゥーでも入れようか。
彼女の名前を……
――それだけで、彼女がそんなに悩むとは思えないんだけど。お前、他に何か、彼女に言ってないことはないのか?
他に何か?
そんなことがあれば、とっくに……
――不安よっ! 当たり前でしょう! だってあなた、何も話してくれないもの。自分の過去も、何もっ……
歩みが、徐々にのろくなる。
シンシアのことは、『話した』。
『話してくれない』ってのは、なんだ?
女性関係……じゃない、のか?
一体他に何が……
――話してないのね、上海でのこと何も。
カツン……
足が、止まった。
まだ、あったじゃないか。
僕の過去。
それを僕はまだ、彼女に話していない。