ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】
『おいライ』
コールは数回鳴っただけで途切れた。
運よく相手を捕まえることができたようだ。
『もうこの番号にはかけるなって言っただろ。手を切りたいんじゃなかったのかよ』
相手の男――貴志は、SDの仕事を一緒にこなした昔の仲間で、
飛鳥と知り合うことになった事件にも関わっていた。
「ごめん、ちょっと聞きたいことがあってさ」
『あのなぁ、こっちはお前が辞めたせいで、お前の分まで馬車馬みたいに働かされてて――』
「ちょっと確かめたいんだけど」
『お前、人の話聞……まぁいいや。とっとと聞け』
「飛鳥に、僕の昔のこと、話したりした? 上海時代のこと」
電話の向こうで、息を飲む気配がした。
『…………』
沈黙はつまり、肯定ってことだろう。
ビンゴか。
「話したんだね?」
『っ別に、ペラペラ全部ってわけじゃない。お前がケンカ強いのは、マフィアに仕込まれたせいだって……それくらいだ』
雪のせいじゃない。
指先まで凍り付くように冷たいのは。
「……わかった」
飛鳥は、知っていたんだ。
『なんだよ、何かこじれてんのか?』
「もう、いいよ。ありがとう」
『あ、おいっ――』
携帯をポケットへ突っ込み、止めていた息を吐きだすと。
どくどくと、一気に体中へ血が巡り始めた。
あぁ、これか――……