ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】
「I love you」
ささやきながら、乱れた前髪をかき上げてやると。
「……ん、……」
わずかな身じろぎとともに、彼女がすり寄るように、僕の首へ鼻を押し付けた。
甘い吐息が首筋をかすめ、僕の身体、ある一点を直撃した。
「っ……」
夜の余韻を引きずったままの体は、まだ十分その種火をとどめていて。
小さなきっかけでも、あっという間に発火してしまう。
柔らかな体の感触を意識的に排除し、じっと高まる欲に耐えた。
彼女を起こして、もう一度と言わず、何度だって楽しみたい気持ちは十分にある。
あるのだけれど……残念ながら今日は平日だ。彼女は仕事がある。
僕のフィアンセは、たとえクリスマス当日だろうと、恋人のために仕事を休む、というごくささやかな(と、僕は思う)アイディアを実行してくれるほど甘い人ではないのだ。
サイドテーブルの時計を見ると……今から愛し合うだけの時間はない。
いや、普通に終えるくらいの時間はあるが、たった一回で満足できるはずはないことを僕はよく知っている。
諦めるしかない。といっても、効果的な方法があるわけじゃない。
ひたすら耐えるのみ、である。
ヨコシマな熱を解消するために、ぐだぐだとどうでもいいことを考えてみる――なぜヨコシマなのだろう。タテシマじゃなくて。ヨコシマのシマウマがいないことと関係があるんだろうか? いや、絶対ないだろう――等々。
まったく……
クリスマスの朝から、僕にこんなバカバカしい思考を強いるなんて。
君くらいだよ、飛鳥。
恨みがましさのこもった指で、滑らかな頬をつついた。
せっかくのクリスマス、なのになぁ……