ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】
そして、2日後――バレンタインデー。
仕事を終えると、僕は新宿へ向かった。
ピンクベースのデコレーションに彩られた繁華街から裏道へ入り。
ぬかるむ残雪に足を取られないよう注意しながら、ビルの谷間のこぢんまりとした店舗の前に立つ。
上品な筆記体で「TOWAZI」と刻印されたドアを押し開けると。
「いらっしゃいま……リー様、お待ちしておりました!」
カウンターを拭いていた小柄な女性が、パッと顔を輝かせた。
「佐伯さん、お願いしていたものはできてますか?」
「はい、お待ちください!」
パタパタと軽快な足音を響かせて奥へと消えた佐伯さんは、すぐに戻ってきた。
恭しく差し出してくれたのは、コバルトブルーの小箱。
中を確かめると……知らず感嘆の吐息が漏れた。
華奢な飛鳥の指に似合うように、毎日つけてもらえるように、と散々デザイナーに注文をつけて困らせて……でもこだわったかいはあったと思う。
それくらいの、出来栄えだった。
「素晴らしいです。ほんとにありがとう」
「お相手がうらやましいです。こんな素敵なリング、贈ってもらえるなんて」
上気した顔からは、本気でそう思ってくれてることが伝わってきて。
胸の奥が温かくなった。
「喜んでくれるといいんですけどね」
「喜ぶに決まってるじゃないですか!」
無邪気に同意してくれる佐伯さんへ、うまく笑えているか自信のない顔を向けて再びお礼を言い、店を出た。
タクシーを拾い、次に向かう先は六本木のシェルリーズホテルだ。