ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】

話したいことがあるから会ってほしいと、時間と場所を指定したけれど。
飛鳥は来てくれるだろうか。

後部座席のシートに身を沈めて既読無視のままのメッセージを思い返しながら、暗くなりそうな気持ちを払うように、頭を振った。

来てくれたら、きっとまだやり直せる。
望みはある。

全部話すから。
君が知りたいこと、全部。

だから飛鳥……どうか、来てくれ。
話を聞いてくれ。

祈るように首を垂れる僕を乗せたタクシーは、幸せそうな恋人たちを横目に、街を駆けていく――


◇◇◇◇

「リー様、お待ちしておりました。どうぞこちらへ」

シェルリーズホテル内にあるフレンチレストラン、ル・パピヨン。
エレガントな内装の店内は案の定――バレンタインだからだろう――カップルばかりだ。

案内されたのは、一段高くなった場所に設けられた、窓際の半個室。
窓からは光り輝く夜景が一望でき、しかも東京タワーとスカイツリーが同時に眺められるという、最高の席だった。

――独身最後のバレンタインだろう? 任せておけ、友よ。

今頃は裏のキッチンで大忙しに違いない友人に心の中で感謝しながら、腰を下ろし。
気づかないうちに張り詰めていた息を、ふぅっと吐きだした。

どんな素晴らしい席だろうと、飛鳥が来てくれなければ意味がない。
ゴージャスな景色を楽しむ余裕なんてなかった。

さっきからバクバクと暴走する鼓動が、うるさくて仕方ない。

女性一人を待つのに、こんなに緊張したのは初めてだった。

スタッフが、お連れ様を待つ間に、とドリンクリストを持ってきたけれど断った。
夜景同様楽しめる気がしなかったから。

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