ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】

約束の時間はどんどん迫り、そして過ぎていく。

腕時計の秒針が進む音を、動悸が追い越していく。


飛鳥は現れない。


何度かスタッフが心配そうにこちらを伺っていたけれど。
やがて気を使ったのか、姿を見せなくなった。

飛鳥は、来ない。



周囲の浮かれたようなざわめきが、次第に遠ざかっていく。


遅かったんだろうか。
彼女は今、矢倉と一緒に過ごしてるんだろうか。

あれほど愛し合ったのに。
心まで重なり合ったと思ったのに。
あっさり捨ててしまえるんだ?
結局君にとって僕は、その程度の存在だったのか。


……あぁ僕は、フラれたんだ――……


ようやく正しく、理解した。
飛鳥は本気だと。
本気で僕と、別れるつもりなんだと。


強く握り締めていた、手を開く。
麻痺したように感覚のない手のひらの上。
青い小さなケースが、ぐにゃりとゆがんだ。


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