ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】
10. 2週間後~飛鳥side
「申し訳ありませんでしたっ!」
新条部長の前で、90度に腰を折り曲げた。
冷え冷えとした頭にみるみる血が上っていくけど、顔は上げない。
上げられない。
2人きりの会議室。
沈黙が、痛すぎる。
フロアで話を聞いていた部長に、「ちょっとこっち来い」と指で招かれ。
これは本格的に怒られるのだなと覚悟した。
当たり前だ。請求書の金額を間違えるなんて、新人みたいな失敗やらかしちゃったんだもの。
幸い、先方がおかしいと気づき、確認してくれたからよかったものの。
そのまま行ってしまっていたらと思うと、血の気が引く。
今までの後輩指導でだって、何度も気を付けるように言ったそのミスを自分が、なんて。
情けなくて、恥ずかしくて……。
新条部長は、パワハラとは無縁の公平な上司だけれど、言うべきことはちゃんと言う人だ。
覚悟を決めて、叱責を待ち受けた。
なのに。
「病み上がりなのに、無理するからだ」
思いがけない言葉に、ガバッと顔を持ち上げた。
「いえっ! 風邪はもうほんとに大丈夫なんです。ですからこれは、単なる私の注意不足です。本当に、申し訳ありませんでした」
ショック、だった……怒ってももらえないんだって。
そりゃそうか。
怒りなんて通り越して、呆れてるわよね、さすがの部長だって。
こんないい年した社員に、今更何を言っていいのかわからないのかも……
冷たい指先をきゅっと握り締めて、悔しさを紛らわせた。