ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】
体調が悪かったのは……事実だ。
2週間前のバレンタイン。
ライアンからメッセージをもらったけど、私は結局、行かなかった。
ホテルの前までは行ったんだけど、入らなかった。
ビルの前で、ル・パピヨンがあるであろうフロアの方をずっと見上げてた。
あぁあそこで今、彼が私を待ってるんだなぁって、バカみたいに突っ立って……
当然のごとく風邪をひき、新人時代以来の病欠。
久しぶりだっただけに、思いのほかきつかった。
風邪は幸い数日で治ったけど。
寝込んで体力が落ちたせいか、尾を引くように怠さが残っていて。
いろんなことに集中できなくて――
でも、三十路の社会人が、そんなことを言い訳にできるはずがない。
「どうか、減給でも停職でも、処分をお願いします」
もう一度深く頭をさげれば、ふぅ、とため息が降ってきた。
「んなことでいちいち停職にしてたら、他の仕事が回らなくなるってことくらい、お前ならわかるだろうが」
ぐいっと腕をつかまれ、無理やり上体を引き起こされた。
「ぶ、ちょう……」
「お前だって、自分以外の人間が同じミスしたら、そう言うんじゃないか? お前は、自分に厳しすぎるんだ」
「でも――」
「お前が罰してほしいのは、今回のミスに対してだけか?」
太い眉の下、探るような眼差しとぶつかって、ビクッと肩が揺れた。