ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】

取り残された会議室。
パイプ椅子に座った私は、額に手を当て、ぼんやりとさっきの会話を反芻していた。

――“あっち”よりは、お前の方がマシみたいだけどな。
――“あっち”みたいには、なってくれるなよ、お前は。

そして……

――拓巳も苦労してるだろうな。

拓巳、って、あの拓巳さんのことよね。
実は部長は、奈央さんのお兄様。拓巳さんにとっては義理の兄にあたる。
2人の間で私の話が出ても、おかしくはないけど……


――お前らは2人そろってまぁ……。

2人って、私とライアンのこと?
じゃあ“あっち”って……ライアン、のこと?

私の方がマシって、どういうことだろう。
まさかライアンに、何かあったの?
そんな疑問が湧き。
どくんっ――椅子から、反射的に背中をはがした。

まさか。
だって田所さんは、特に何も言ってなかった。
病気だとか、休んでるとか、そんなトラブルっぽいことは何も……

ジャケットのポケットに入れた携帯を、上から押さえて。
いやいや、と首を振る。

もう恋人じゃないんだから、関わっちゃダメ。
心配なんか、する資格ないんだから。

膝の上に戻したその手で、くしゃりとスカートを掴む。

もう関係ない。私たちは、もう……

自分の意志とは関係なく動きそうになる手に、私は痺れるほど力を込めなければならなかった。
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