ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】
コツコツ、コツ……
数時間後。
橙色のアットホームな明かりが漏れる家々を眺めながら、私は住宅街の夜道に靴音を響かせていた。
ほどなくたどり着いたのは、コンクリートがむき出しになった瀟洒なデザイナーズビル……カレントウェブが入っているところだ。
時刻は、21時。
時間を確認してから携帯を下ろし、ため息をつく。
なんで来ちゃったんだろう……
こんなところに来たって、何ができるわけでもないのに。
でも……
もし、彼に何かあったら。
そう考えただけで、心臓が冷たい手で鷲掴まれたみたいに息苦しくて。
居てもたってもいられなかった。
出てくるところ、元気な顔をチラッとでも見られたら……。
でも、そんなにうまくいかないか。
こんな時間だと、もう退社してるかもしれない。
でもせっかく来たし、少しだけ待ってみようかな。
どこかうまく隠れられるような物陰はないかと、あたりをキョロキョロ見回して。
そこへ。
地下の駐車場から、一台の車が出てきた。
眩いライトがあっという間に大きくなり、こちらへ近づいてくる。
慌てて邪魔にならないよう、脇によけたんだけど。
やってきたシルバーのスポーツカーは、私の真横で音もなく停車。
運転席の窓がスルスルと降りていく。
「やっぱり、飛鳥さんだ」