ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】
そう。
それについては、他にも不満があるのだ、僕は。
もちろん、彼女と僕は育ってきた環境も文化も違う。
クリスマスというイベントについて、全く同じ考えを共有することが難しいことくらい、わかってる。わかってる、けど……
平日だから仕事へ行く。
それは百歩譲……りたくはないが、むりやり譲ることにして。
でもそれならどうして――……
「ライアン……?」
気づくと、彼女の黒い瞳が僕を見上げていた。
まだ寝ぼけているんだろう。
瞼が半分降りた瞳は、夢とうつつを彷徨い、まだとろんと定まらない。
あぁ可愛い……
「Merry Christmas, my princess」
緩んだ顔のまま、そっと瞼へキスを落とせば、
彼女の頬が、ぷうっと膨らんだ。
「もう、……私はお姫様じゃないってば……」
不満げな彼女をなだめるように、枕へ広がるその髪へ触れた。
「わかってる。だからちゃんと断ってるだろ、“僕の”お姫様って」
「そ、そういうの……ずるい」
ひと房を手に取って口づける僕へ、拗ねたように尖らせた唇が向けられる。
あぁ、キスしたい……ティーンエイジャーみたいに襲い掛かりそうになる自分を抑えるために、頭の中で慌ただしく、代わりの話題を探した。
「ねぇ飛鳥。どうしてプレゼント、用意しちゃいけなかったの?」