ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】

そう。
それについては、他にも不満があるのだ、僕は。

もちろん、彼女と僕は育ってきた環境も文化も違う。
クリスマスというイベントについて、全く同じ考えを共有することが難しいことくらい、わかってる。わかってる、けど……

平日だから仕事へ行く。
それは百歩譲……りたくはないが、むりやり譲ることにして。
でもそれならどうして――……


「ライアン……?」

気づくと、彼女の黒い瞳が僕を見上げていた。
まだ寝ぼけているんだろう。
瞼が半分降りた瞳は、夢とうつつを彷徨い、まだとろんと定まらない。

あぁ可愛い……

「Merry Christmas, my princess」

緩んだ顔のまま、そっと瞼へキスを落とせば、
彼女の頬が、ぷうっと膨らんだ。

「もう、……私はお姫様じゃないってば……」

不満げな彼女をなだめるように、枕へ広がるその髪へ触れた。

「わかってる。だからちゃんと断ってるだろ、“僕の”お姫様って」

「そ、そういうの……ずるい」

ひと房を手に取って口づける僕へ、拗ねたように尖らせた唇が向けられる。

あぁ、キスしたい……ティーンエイジャーみたいに襲い掛かりそうになる自分を抑えるために、頭の中で慌ただしく、代わりの話題を探した。


「ねぇ飛鳥。どうしてプレゼント、用意しちゃいけなかったの?」

< 18 / 343 >

この作品をシェア

pagetop