ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】
聞き覚えのある声に、パッと上げた視線の先。
優美なアーモンドアイが私を見つめていた。
「た、拓巳さん……」
まずい。
言い訳を、まったく考えてなかった。
どうしようっ……
「あの、えっと――」
「ライアンに、会いにきてくれたんですね?」
「いいいえっ! ちょっと通りかかっただけでっ!」
んなバカな、と自分でも突っ込んでしまいながら、
いっそそのまま逃げてしまえばよかったと後悔したけど、もう遅い。
ここは、何か適当なことを……と狼狽えつつ口を開いた私より先に、
「よかった……」って吐息交じりの声がした。
それが、すごく実感のこもった口調だったせいだろうか。
私は拓巳さんへと視線を戻していた。
「あいつはまだ、中にいますよ。5階です。行ったことありますよね?」
「いえ、私は……」
後ずさる私の腕を、運転席から伸びた手がガシッとつかんだ。
「拓巳、さん?」
「お願いします。会ってやってください。あいつは今、ボロボロだ」
え――……
心臓が、音を立てて軋んだ。