ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】
「どういう……ことですか?」
「ほとんど家に帰ってないんですよ。あなたにフラれてから」
「え……?」
「オフィスにこもって仕事して、ソファで仮眠取って、また仕事して……ずっとそんな調子です。あぁ、仕事は完璧ですよ。新規の契約交渉も既存クライアントのフォローもちゃんとやってる。部下の面倒もちゃんと見る。社長としては、喜んでいいと思うんですけどね」
私から離した手で、拓巳さんはくしゃりと前髪をかき回し、車の天井を睨んだ。
「友人としては……心配でたまらない。今のあいつの仕事の仕方は、異常だ。カーブも坂道もお構いなしで、アクセル踏みっぱなしにして突っ走ってる感じです。むしろぶっ壊れたがってるんじゃないかと思うくらい」
ぶっ壊れたがって……?
それって……
ひくっと、喉の奥で音が鳴った。
まさか、私のせい?
崩れそうになる足に力を込める私へ、拓巳さんが再び、視線を寄越した。
「ライアンから聞きました。元カレと……ヨリを戻したそうですね。もちろん、あなたにだって幸せになる権利はあるし、邪魔したいわけじゃない。あいつはモテすぎるし、あなたが不安になった気持ちもわかります。でも過去に、どれほどたくさんの女性と付き合ってきたとしても、今あなたのことしか見てないのは、飛鳥さんだってわかって――……飛鳥さん……?」