ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】
怪訝そうな声。
それでようやく、拓巳さんにじっと見つめられていることに気づき、顔を上げ。
その途端。
ボロっと頬が濡れる感触に気づいて――ギョッとした。
慌ただしくそれをぬぐい、視線を逸らした……けど。
眉間に皺を寄せた拓巳さんが、暗い車内からまだこっちを凝視してる。
「飛鳥さん、あなたまさか――」
「私には、何もできません。もう、関係ないですしっ……」
なんとか早口で言い繕おうする私を、しなやかな手が制した。
「わかってます。考え直してくれとか、そんなことを言うつもりはないんです。ただ、せめてちゃんと家に帰って休むように、言ってやってくれませんか。あなたの言うことなら、聞くと思うから」
「そんな、私の言うことなんて……」
「あいつとは長い付き合いですけど、こんな風になったのは初めてで……オレも正直どうしたらいいのかわからないんですよ。お願いします、助けてください」
切羽詰まった表情からは、拓巳さんが嘘をついてるわけじゃないって、伝わってくる。
ライアンがいつもと違うって言うのは、本当なんだろう。
でも……私だって、どうしたらいいのかなんてわからない。
私が何を言ったって、効果があるとは思えないし。
逆に怒りだすかもしれない。
今更何しに来たんだって。
でも……どうしても、立ち去ることもできなくて。
その場に立ち尽くしてしまう。
すると。
車のエンジンが切れる音。
ドアが開き、拓巳さんが降りてきた。
「セキュリティ解除するんで、ついてきてください」
返事も聞かずに、さっさとビルの中へ入って行ってしまう背中を目で追い……私の足は勝手に歩き出していた。