ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】
じゃ、あとはお願いします――
そう言ってすぐに拓巳さんは帰って行き、私はシン、と沈黙するフロアに、一人残された。
回れ右して、逃げ出したい気持ちでいっぱいだったけど……
私が引き起こしたことでもある。
とにかく様子だけでも見てこようと、覚悟を決めた。
すでに人の姿のない社内は、常夜灯の他、ほとんどの照明が落ちて薄暗い。
IT業界って、徹夜が当たり前っていうイメージがあったんだけど……と、ちょっと驚きながら、ポップな形の椅子やデスクの間を抜けていく。
やがて前方にそこだけ、煌々と明るい一角が現れた。
ガラスで囲われた個室――以前案内してもらったから、知っている。
そこが、ライアンのワークスペースだ。
彼が、いる。
とくん、と小さく弾んでしまう胸と、反比例するように鈍くなる足取りを自覚しながら、さらに進む。
ブラインドの隙間から、中の様子を伺った。
デスクにも椅子にも、人影はない。
そのままそろりと、目を動かして……見つけた。
ソファからだらしなくはみ出してる長い足。
見覚えのある革靴だから、ライアンだ。
……寝てるみたい。