ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】
私は……もう、一人でいいや。
遠く離れて、二度と会えなくても、
きっと忘れられないだろうから。
彼のこと、ずっと――
「飛鳥?」
ふいに自分の名前を呼ばれて視線を下ろすと、雅樹が「今帰り?」と近づいてくるところだった。
肩には重たそうな四角い黒カバンを下げてる。カメラ用のものだ。
「うん、雅樹は……仕事?」
「そ、ここで」と、雅樹の親指が背後の店舗を指した。
“Coming Soon”と張り紙があって……レストランらしい。
「来月オープンなんだけどさ、夜ライトアップしたところも撮ってほしいって頼まれ……」
雅樹の言葉が尻すぼみに消えてしまい、どうしたんだろうと顔を上げた。
「何?」
「泣いてたのか?」
「っ……」
も、もしかして、パンダ目にでもなってた?
は恥ずかしい……
「だ、大丈夫。ちょっとその、仕事で失敗しちゃって落ち込んでて、やだな――」
ガタンッと耳障りな音に、言葉が遮られた。
道へ放り出された黒カバンを目で追い……――次の瞬間。
私は温かな腕に抱きしめられていた。
「や、あの……まま雅樹っ?」