ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】
「もう1杯」
今度こそはっきりと、バーテンは迷惑そうに顔をしかめて見せたが、僕は無視した。
会社近くのこのバーは、手ごろな広さと酒の種類の多さ、その割に少ない客のおかげで気に入っていたけど。
当分来ない方がよさそうだ。
仕方なく、といった風に置かれたグラスを鷲掴み、不格好にあおると。
空腹の胃がまた何度目かの悲鳴をあげ、拒絶するように暴れまわる。
どんよりと積もっていく、不快な鈍い痛み。
でも、そんなことはどうでもよかった。
身体の奥で蠢くものから、意識をそらしたかった。
そこにあるのは、2人への嫉妬。
けど、それだけじゃなくて……
「Damnッ……」
低く毒づく。
「もう1杯くれ」
こんな時だというのに。
いや、こんな時だから、なのか。
僕は気づいていた。
中途半端に煽られた身体が、ジリジリとまだ、危うい微熱を留めていることに。