ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】
僕の探るような視線を避けて飛鳥は目を伏せ、「だって……」と小さくつぶやいた。
「ライアン、付き合い始めてからずっと、毎日のようにいろいろ買ってくれるじゃない。もう十分よ」
毎日のように、いろいろ?
まぁ……それは、そうだけど。
服やかばん、靴、アクセサリーや下着etc.飛鳥に似合いそうだと思うと、ついつい欲しくなってしまうから。
「何度も言うけどね、それはみんな僕の愛なんだよ? 君は僕のフィアンセなんだから、当然って顔して受け取ってくれればいいんだ」
広告代理店の営業職として第一線で働いている飛鳥は、どうも甘え慣れていない。
プレゼントを前に、いつも申し訳なさそうな、困ったような顔をする。
そういう不器用なところも、大いに愛おしいけれど。
もっとワガママになってくれればいいのに、と僕は常々思っている。
「お金の心配してるなら、前にも説明したけど、本業以外にも学生時代から投資で稼いでるから――」
「そういうことじゃなくて……」
細い指が僕の唇へ触れ、言葉を遮った。
その表情はいつのまにか曇っていて、反射的に僕は口を閉ざす。
何かまずいことを、言ってしまっただろうか?
「ねえ、今までの彼女にも、あんな風にいろいろ買ってあげたの?」
「……え?」
一瞬、彼女の気持ちを量りかねて、口ごもった。
「……まぁ、そうだね」
嘘をつくわけにもいかず頷くと、彼女の眼差しが憂いを帯びる。
そして。
「あのね、ライアン……私のこと、愛してる?」
静かな口調のまま、彼女は爆弾を落とした。