ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】

<やめてくれ。彼女は何も知らない>
<あら、話さなかったの?>


話す前にフラれたんだ、と言おうとして。
口を噤んだ。

話していたら、どうだっただろう?
最初から僕の過去を話していたら、打ち明けていたら?

想いがすれ違うことは、なかっただろうか?

それとも僕を怖がって、やっぱり離れて行っただろうか……


<彼女は、バックグラウンドで人を判断するような人じゃない>
<ふぅん、そうかしら>
<だいたい、君には関係ないだろ>
<まぁ、そうね>

あっさりと引き下がったことに少し驚いて隣を見ると。
艶を帯びた紅い唇が、グラスから琥珀色の液体を啜っていた。

<それで? 失恋でやけ酒ってわけ? らしくないわね>
<……放っておいてくれ>
<たかが女一人でしょ、いくらでも代わりはいるわ。例えば……>

つつつ、と僕の腕へ。
真っ赤に塗った爪が、思わせぶりな線を描く。

<やめろ>
邪険に言ったのに、構わずそれは、僕の髪へと伸びてくる。

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