ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】

音の主は、どうやってかエントランスのオートロックを解除し、コンシェルジュの目をすり抜け、部屋の前にまでやってきているらしい。

こんなことができるのは……

「はいはい、今開けるよ……開けるってば」

やけっぱちのようにつぶやいてから。
這うようにして廊下を抜け、玄関にたどり着いた。

ガチャッ

開錠した途端、向こう側からグイっと、強引にドアがこじ開けられた。
やっぱりだ。


「……拓巳、なんだよ朝っぱらから」

「もう昼だ。酒くさいぞライアン」

休日だからだろう。
カジュアルなシャツとチノパン姿の拓巳は、挨拶もなく勝手なことを言い捨て、中に入り込む。

そのまま勝手知ったるなんとやら、という風にずんずん、先へ進んでいく。

なんなんだよ、一体……
ズキズキと疼くこめかみを押さえながら、僕は後を追った。


「今日は休みだろ。ゆっくり寝かせてくれたって――」

ダイニングの椅子に崩れ落ち、ぶつぶつ文句を言う僕を放って、
拓巳はなぜか、あちこちの部屋を確認しているようだ。

「なんか変な匂いしないか?」
そんなことを言いながら、寝室やバスルームまでドアを開けて、くまなく。

「……何してるんだよ?」

なんでもいいけど、もう少し寝たい。
ぼんやり考えながら、彼を待った。

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