ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】
一通り見終わって満足したらしい拓巳が、ダイニングに入ってきた。
僕の目の前で腕を組み、こっちをじろりと見下す。
「今日、会社に行った。いくつか、もう少し詰めておきたい案件があって」
「……はぁ」
休日出勤したことを褒めてもらいたいんだろうか。
いやまさか。
訳が分からず、ぽかんとするしかない。
「電車で出勤したんだ。夜、接待の約束が入ってるから」
ますます話は見えなくなる。
こっちはしんどくて死にそうなんだ。
とっとと本題に入ってくれないかな。
「駅から歩いて会社へ向かってた。そしたら途中で、宮本祐奈と名乗る女の子に、突然呼び止められた」
「みやもと……ゆな?」
そんな名前、聞いたこともないけど。
拓巳は変なものでも食べたのか?
それとも僕が、二日酔いでおかしいだけなのか。
「誰だよ、それ。君のガールフレンド?」
「バカ。オレは浮気なんかしないよ、誰かと違って」
棘のある言葉に視線を上げると。
険しく吊り上がったアーモンドアイとぶつかった。
「宮本さんは、“モンスーン”でウェイトレスとして働いてる。前に、お前と一緒に昼メシ食った時、料理を運んでくれた子。覚えてるか?」
「モンスーンは知ってるけど……」
会社近くのアジアンレストランだろ。テイクアウトもできて便利だし、よく行ってるけど……いちいち店員までは……とそこまで考えて、ようやくピンときた。
――ひ、日替わりランチお二つ、おおおお待たせいたしました……
ポニーテールに結い上げた明るい茶髪、トマトみたいな真っ赤な顔……
あぁ、あの彼女か。