ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】

「最悪だよ。酒を飲んで吐くなんて、初めてだったから」
「お前、強いもんな」

たぶん、この部屋に連れてきたのが間違いだったんだろう。
ここには飛鳥の思い出が、気配が、あふれているから。

あの強烈な香水に、それらが上書きされてしまうことに、
僕の中の何かが、悲鳴を上げたのだ。

まったく、どうしようもないな僕は。
手の届かなくなった今でさえ、こんなにも彼女に焦がれてるなんて――


「次は、酒を飲んでない……ええと、シラフ、の時にヤることにするよ。それとも、何か薬でも試してみようかな。いろいろあるだろ? ソノ気になる奴。使ったことないけどさ」

もう、そんなものでも使わないと、飛鳥以外の女性なんて抱ける気がしない。
でもこの先ずっと、自分で慰め続けるのは辛すぎるしね。
半ばヤケクソのようにそう続けると。

「わかった」

やけに清々しい声で、拓巳が言い放った。
「歯、食いしばれ」

「は、……?」

とっさのことに、僕は「は」と「歯」と「teeth」が相互変換できなかった。
そこに生まれた、わずかな隙――



ドガッッ!!



目の前に、星が散った。

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