ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】
瞬きを繰り返しながら、目の前の男を見上げる。
その眼差しは真剣そのもの。ジョークって雰囲気じゃない。
ちゃんと答えないと、解放してくれなさそうだ。
ため息をついて仕方なく、記憶を遡った。
拓巳と、最初に会った……時。
僕たちは大学の同級生だけど、専攻が違うから接点はなかった。
知り合ったのは確か、2年の時だったかな。
「ええと、どっかのダイナーで……一緒になったんじゃなかった?」
「そうだ。オレが一人で飯食ってたら、お前が女連れで入ってきた」
「女、連れ……」
どんな女の子だっけ。
大学時代につき合ってたコなんて、大勢いすぎて覚えてないな。
「お前らが食べ始めてから少しして、いきなり店に男が乱入してきて、お前に向かってわめき散らした。人の女に手を出して、ただですむと思ってるのか殺してやる、とかなんとかって」
霞がかった頭の片隅に、それでもひっかかるものがあって頷いた。
あった、……そう、そんなことが。
「その時、お前その男に、なんて言った?」
「え? 僕……?」
ようやくまともに動き出した脳みそから、その思い出を手繰り寄せる。
そうだ。
ブルネットの女だった気がする。相手とは『もう別れた』って言って近づいてきて、別に嫌いなタイプじゃなかったから、寝て。
でも実際は、別れたと思ってたのは、彼女の方だけだったらしくて。
男の言葉から僕はそのことに気づいたけど、でも説明するのもめんどくさかったし、無駄だとも思ったし……何か言ったな、確かに。
相手の男が、火を噴く勢いで怒るようなことを。
考え込む僕に言い聞かせるように、拓巳はゆっくりと言葉を続けた。
「日本語にすると、こんな感じかな。『君のものは僕のもの、僕のものは僕のもの、ってことで、諦めたら?』」