ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】

――ねえねえ、あそこの長髪の人、いいと思わない?
――ほんとだー、なんかワイルドな感じで素敵。
――さっき、笑ってたよ。
――見た見た、かわいかったよねー!

微かにさざ波のような会話が耳に入ってきて、視線を上げた。

密かに見渡せば、女性客が多くを占める店内、あちこちから熱っぽい視線が向けられていた――雅樹へ。

当の本人は、運ばれてきたコーヒーに淡々と口をつけてるけど。
たしかに彼、客観的に見てイケメンだからな。

少しキツめの眦が、笑うとしゅっと緩んで。雰囲気がマイルドになる。
ギャップ萌え、っていうのかな。
昔から、業界内でもファン多かったっけ。
ミユキちゃんも心配だろうな。


「金曜の夜遅くなっちゃって、ミユキちゃん心配してなかった?」

あれはやっぱり甘えすぎだったかもと、反省してる。

泣き止まない私を連れて近くのカラオケボックスに入った雅樹は、落ち着くまでずっと一緒にいてくれて。
その後、家まで送ってくれて。

雅樹が帰ったのは、深夜近かったと思う。
2人は確か同棲してたはずだから……

「別に、お前が気にすることはないよ。大丈夫」

「なんでもないことでも、ちゃんとその都度、言っておいた方がいいわよ? 隠されると不安になっちゃうから」

身に覚えがあるだけに、気が気じゃない。

「なんなら、私から説明しようか?」

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