ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】
私のせいで2人が別れたり喧嘩したりするのは嫌だし……。
と提案すると、雅樹はカップをソーサーに戻し、その恰好のまましばらく黙り込んでしまった。
「……雅樹?」
下から覗き込むと、その目が気まずそうに揺れ動く。
「あー……実はさ、今あいつ、東京にいないんだ」
「……は?」
「実家、に帰ってて」
実家? と首を傾げ。
ギョッとした。ミユキちゃんの実家と言えば……
「京都よね、たしか。どういうこと? 喧嘩でもしたの?」
「いや、そういうわけじゃないけど」
「何もないのに帰るわけないでしょう。それとも、ただの帰省なの?」
「いや……そうだな。もう、戻ってこないかも」
レザージャケットに包まれた肩が、落ちていくのがわかった。
らしくない弱気な調子に驚きながら、彼の話を何も聞かず、勝手に自分の事情に巻き込んでしまったことを後悔した。
「どうしたの、何かあった?」
「んー……向こうの両親がさ、俺とのこと反対してて。説得に行ったきり、連絡とれなくなって」
「えぇっ!?」
「まぁこっちはフリーランスの不安定な身の上だし? 向こうにしてみたら、そんな怪しい男になんかやれるか、って気になるよな。あいつ、箱入りだしさ」