ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】
携帯が着信を知らせた。
ディスプレイを確認すると、張からだ。
「ウェイ?」
《ライアン様、お仕事中失礼いたします》
ハキハキとした北京語が聞こえてきた。
<そろそろ終わるところだ。かまわない。何かあった?>
《はい、ご指摘のあった不採算部門につきまして、見直し及び撤退が完了いたしましたので、ご報告をと思いまして》
そういえば……
父さんの会社に関する指示を出しておいたんだっけ。
飛鳥のことで頭がいっぱいで、すっかり忘れてた。
<うまくいったんだ、よかった>
《はい、ライアン様が各方面へ、手を回してくださったおかげです。ご推薦いただいた日系の会社とも、業務提携に向けた話し合いが進んでおりまして、来月初めにも合同のプロジェクトチームを結成し、動き出す予定です》
<うん、焦らなくていいから、着実に頼むよ>
勝算はあったから、それほどの感動もないけれど。
指示を出したのが、バレンタイン以前で幸いだったな。
ここ1か月の僕は、それどころじゃなかったから。
こっそり苦笑いしていると、受話器の向こうから《さすがでございますね》と大げさな声がした。
《短期間でこれほどの失点回復はなかなかできることではありません。やはり、次期社長にはライアン様が――》
<父さんが元気だったらそうしただろう、ってことをしたまでさ>
張はどうも、僕を買いかぶってるところがある。
漏れかかったため息を抑えて、<それで、父さんの体調はどう?>と話題を変えた。
《まだ絶対安静ですが、来月には退院できるだろうとドクターはおっしゃっていました》