ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】

<そうか>
今度こそ、肩の力が抜けた。

父さんにはまだまだ、元気でいてもらわないと困る。
孫の顔が見たいって言ってたし。

《もう1点、これはジエン様からのご相談なのですが》
<父さんから?>

《はい。ジエン様が、ご自分の体調のせいでライアン様が結婚式を延期などされないか、大変気にされていまして。それで、ぜひお二人をバンクーバーへ招待して、元気な姿を見ていただきたいとおっしゃっておいでなのですが……》

<あぁ、ええと>
どこまで伝えるべきだろうか、と少し迷ってから……<実は>、と切り出した。

<お前には言っておくけどさ、婚約はいったん白紙に戻したんだ>

《は? 白紙、でございますか?》
<すまない、驚かせて。実はフラれちゃってね>
《ふ、ふられ……そうですか。それはその、なんといいますか……》

あまりにも申し訳なさそうに言うから、笑ってしまった。

<別に何も言わなくていい。諦めたわけじゃないから>
《と、申されますと?》
<言葉通りだ。もう一度、最初から始めるってこと。彼女に振り向いてもらえるようにね>

電話の向こうで、張が息を飲んだ。
《なるほど……左様でございますか》

簡単にはいかないだろう。
彼女にはもう、新しい恋人がいるし……

けど、こっちだって引くわけにはいかないんだ。

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