ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】

《そのこと、ジエン様にはお伝えしてもよろしゅうございますか?》
<父さんに? あぁ構わないけど……他に漏らさないように、口止めしておいてくれよ?>

《シンガポールの方に知られると、面倒だということでしょうか?》
<そういうこと>
ぜひうちの娘を嫁にと色めき立つ連中がうじゃうじゃやってくるだろう。
想像しただけでゾッとする。

《かしこまりました。仰せの通りに》

直角でお辞儀する様子が目に浮かぶような優等生っぽい返事を聞いてから、通話を切った。

顔を上げると、ガラスの向こう、さっきまで賑やかだったオフィスの声が半減してる。
定時を過ぎて、みんな早々と切り上げているらしい。

さて、僕の方は……と、腕時計を見下ろした。
そろそろ約束の相手が来る頃だ。
飛鳥を取り戻す、次なる一手。


手早く帰り支度をして、パソコンの電源を落とす。
図ったかのようにタイミングよく。

コン、コココン
歌うような調子でドアがノックされた。

「あぁ、今行くよ」


カバンを手に取りつつ、ほくそ笑む。

さぁ、愛しい君のために罠を仕掛けに行こう――

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