ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】
「最近、調子がよくないみたいでな。精彩を欠いているというか、疲れてるって感じが伝わってくるような仕事ぶりなんだ」
顔色がよくないなとは、僕も思った。
それは……もしかして、僕とのことが原因なんだろうか。
「俺がお前の側につけば、真杉を今以上に精神的に追い詰めてしまうことになるんじゃないか? お前はそれでもいいと?」
鋭い、というのとは違う、深みを帯びた眼差しを受け止め、「えぇ」と頷いた。
「何があろうと必ず、僕が受け止めます。彼女を幸せにできるのは、僕だけですから」
迷い始めたらキリがないし、そんな時間もない。
取り戻したいなら、信じて行動するだけ――手遅れになってしまう前に。
「…………」
新条はそんな僕を見たまま、黙り込む。
それは、あのナディアさえ言葉を控えるような、張りつめたひとときだった。
やがて。
グラスの中身を煽り、飲み干した新条が言った。
「……わかった。協力しよう」
ふぅ、と知らず力が入っていたらしい肩が、下がっていく。
「ありが――」
「だがそれは、賄賂につられたからじゃない」
「え?」
「俺も、腑に落ちない点があるからだ」
「腑に、落ちない?」
「納得できない、と言い換えてもいい。なぜ、真杉が矢倉とヨリを戻したのか、そこが、俺にはわからない」