ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】

「どうして? そんなのよくあることじゃない」
ナディアが首を傾げた。

「エックスボーイフレンドと再会して、そういうの、ええと……焼いた、栗だかハマグリだか、火が付くって日本でも言うんでしょ?」

「焼けぼっくいな」
「そうそう、それ!」
「栗でもハマグリでもないが……まぁいい。とにかく、確かに俺は、あいつらが公私ともにいい関係だった時代を知ってるから、そういう可能性もなくはない、と思う。ただ……」


思わせぶりな視線を寄越されて。
自然と、僕は身構えた。


「矢倉には、女がいたはずだ」


「……え?」

「え、え、それってそれって、どういうことっ!?」

興奮して身を乗り出すナディアを、なだめるように手で制しながら、新条が続ける。

「矢倉雅樹って男は、この業界じゃかなり知られたカメラマンなんだ。腕もいいし、加えてあの面(ツラ)だ。真杉と別れた後なんか、彼を巡って裏で結構えげつないバトルがあったらしい」

僕は、何度か顔を合わせた矢倉を思い浮かべた。
ファインダーを覗く時は孤高のサムライ、といった佇まいなのに、笑うとその印象が一気に崩れる。
クライアントだろうとスタッフだろうと、するりと懐に入り込むような笑顔を見せる男だった。
彼の人気は、ラムが教えてくれた“ギャップ萌え”ってやつかもしれない。

< 253 / 343 >

この作品をシェア

pagetop