ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】
「あれ、どっか行ってたんですか? 忘れ物?」
駐車場に戻ってきた僕へ、両手に袋を下げたラムがきょとんと首を傾げた。
「実は今さ……」
スタジオの前に、不審な男がいたのだという話をすると、ラムがグワッと目を見開いた。
「そいつ、野球帽かぶってませんでした!?」
「あぁ、かぶってた。黒いやつ」
「絶対それ、あいつだっ!」
それからラムは、口から泡を飛ばす勢いで、以前ぶつかったという男の話を聞かせてくれた。どうやら、僕が見た男と同じで間違いないらしい。
「ストーカーなんですよっ! あたしのこと、待ち伏せしてたんですっ!」
ここにはみんながいるから、手出しはさせない、と興奮気味のラムをなだめ、後から樋口も来るから帰りは送ってもらえばいい、とスタジオ内へ促した。
ラムのストーカーか……日本も物騒になったな。
と思いつつも。
さっきから頭の中で、チカチカと何かが点滅し続けている。
なんだろう……?
ようやくその正体に気づいたのは、薄暗い廊下を抜け、前回と同じ第3スタジオの入口に差し掛かった時だった。
あの時、あの男が見つめていたのはラムじゃない。
中へ入っていく飛鳥だった。
はじき出した答えに、思わず足を止めた僕の耳へ。
「えぇっ!? 何よこれぇ!!」
悲鳴のような叫び声が、聞こえた。