ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】
カシャッカシャッ――
ストロボの瞬く音が小気味よく、断続的に響く。
「もうちょっと具材、見えてた方がいいかな。足す? それとも中から出す?」
「足します」
出来上がった料理を、角度や見え方にこだわりながら、1点1点、丁寧に撮影していく。
「次の料理は?」
「あとは、上にパセリを乗せるだけです」
「OK。あと3分で行くよ」
「わかりました」
ただどんどん作ればいいってわけじゃない。
アイスやドリンク系ほど、今日の撮影は難易度が高いわけじゃないけど。
撮影スピードを伺いながら、最適のタイミングで料理を仕上げるのは、やっぱり相当難しいと思う。
その点、雅樹と南波さんは、さすがのベテラン。
息もぴったりだ。
撮影は滞りなく進んでいく。
「チェック、お願いします」
雅樹が、リビングのソファに座る樋口さんの前へ、ノートパソコンを置いた。
ライアンと私も、後ろから覗き込む。
ソファを移動させて、窓際に即席で作った撮影スペースだったけど、
出来上がってきた写真は、自然光をうまく生かして、屋外っぽい雰囲気が出ていて。春の行楽シーンっていうコンセプトにもピッタリ。
すごく素敵だった。
「いいですね。これでお願いします」
特に直しも突っ込みもなく頷いた樋口さんに、みんなの口から安堵の息が漏れた。