ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】
結果としては、ここにして大正解だったな。
隣でパソコン画面をチェックするライアンを流し見る。
数時間前、他のスタッフと一緒に部屋へ足を踏み入れた時。
思い出して真っ青になった事――リビングに私との写真が飾ってある!――も、杞憂だった。
彼がすでに移動させていたらしく、家族写真だけになっていた。
動かしたのが今日なのか、もしくはずっと以前なのか……それはわからないけど。
もう戻ることはないと思ってた場所。
ほんの少し離れてただけなのに、もう懐かしい……と、私は視線を巡らせた。
――手伝うよ。
スタジオの駐車場で、突然耳元に吐息がかかって。
持っていた袋を取り落とすほど、うろたえてしまった。
『必ずもう一度、振り向かせる』
あんな風に言われてから、直接会うのは初めてで。
だからかな。
――重いだろ、これは僕が持つよ。
ほんのわずか、かすめた指にすらドキドキしちゃったこと……気づかれてたら、どうしよう……
でも、あと3品。
それでこの撮影も、この仕事も終わりだ。
そうすればもう、彼との接点は本当になくなる。
視線を伏せて、こっそりその場を離れた。