ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】
「すみません、スケールがあるかどうかって、わかります?」
キッチンの様子はどうかな、と顔を出すと、アシスタントさんが眉を下げながら、アタフタといろんな棚を探っているところだった。
「あぁ、それならここに……」
ちょっとわかりにくいかも、とシンク横の引き戸を開けて見せる。
ビビッドなビタミンカラーのスケールは、私が買ったお気に入り。
ライアンは全部目分量でやっちゃうけど、やっぱりちゃんと測った方が――
「すごーい、よく一発でわかりましたね! こんな広いキッチンなのに!」
「へ?」
感嘆の声に、ハッとした。
しまった、やらかした。
気づいた時には、もう遅い。
「まるでこのキッチン、使ったことあるみたいですねー」
南波さんやもう一人のアシスタントさんにも目を丸くされてしまい、あはは、と乾いた笑みが止まらない。
まずいまずい、余計なことしちゃったかも。
ジリジリと後ずさって――トン、と壁にぶつかった。
いや、壁じゃなくて。
「どうかした?」
降ってきた声に、ビクッと肩が跳ねた。
「や、あの……なんで、もな――」
「あ、リーさん、ありがとうございます。スケール、真杉さんが見つけてくださったので、大丈夫です」
「へえ、真杉さんが、見つけてくれたんだ?」
くるりと、翡翠色の瞳がおもしろそうに動く。
「うん、そう……、今日はカンが、冴えてたみたい」
言ってすぐ、後悔した。
ライアンがぶぶっと吹き出した口元を手で覆いながら、一生懸命笑いを堪えてる。
うう……墓穴、ほった。