ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】


――必ずもう一度、振り向かせる。


もしあれが、……本気だったら……?


どくんどくんどくん……


さっきまでの賑やかさが嘘みたいな静寂。
そこに立っていると、それまで忘れていたこの部屋の記憶が、鮮やかに浮かびあがる。

ソファやラグの上で愛し合ったことや、その息遣いまで生々しく思い出してしまい、体温が急上昇して――


くすりと、すぐそばで、笑みの気配がした。
「そんなに意識されると、かえって期待しちゃうんだけど?」

「は!?」
彼を仰いで、激しく首を振る。


「ぃいっ……しきとか、してないしっ!」

「ふぅん? ほんとに?」
揶揄うように覗き込まれて、う、と顎を引いた。


ほんの数センチの位置、誘うようにわずかに開いた、厚みのあるセクシーな唇。
見つめているだけで、口の中へ……激しく暴れるあの舌の感覚がよみがえるようで――ぎゅうっと目を閉じた。

ダメだ、この前もそうだったけど、2人きりっていうのは……本気でこっちの分が悪い。


「か、帰るっ!」

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