ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】
雰囲気に飲まれてしまいそうな自分が怖くて、彼を押しのけると。
カバンを引っ掴み、わき目もふらず玄関へ突進した。
けど。
「予算の話、するって言ったろ?」
追いかけてきた声に、ピタッと足が止まった。
「よ、予算って……何? もうお金の話は終わってるでしょう?」
のろのろと振り返った私を見ながら、「へえ」と優美な眉が柔らかく上下する。
「そうだったかな? 今日のこの部屋の使用料については、話し合ってないけど」
「へ、部屋の……使用、料!?」
素っ頓狂な声が飛び出してしまった。
だって、だって……お金取る気!?
「まさか、タダで使うつもりだった? それは虫が良すぎるよね」
「や、でも……」
そ、そうか。確かにそういわれれば……
関係者だからといって、甘えちゃいけないのかも……?
困惑する私の前で、ライアンがくい、と私を指で招いた。
「戻っておいで。じっくり話し合おう」
「…………」
どうやら私に、拒否権はないらしい――