ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】
「わわ、かった……1度だけね」
ここは、条件を飲んだ方がいい。
とっさに判断して、彼へと近づいた。
立ったまま、座る彼へと上体をかがめるのは、バランスを保つのがひどく難しい。
それでも言いなりになりたくなくて、彼の手は無視。
その肩へ自分の手を恐る恐る乗せた。
筋肉の隆起を感じさせる硬い感触に、鼓動がせわしなく打つ。
ゆっくり、慎重に、身体を折っていく。
一瞬だ。
一瞬だけでいい。
唇が触れたら、キスだって言える。
それでも震えてしまう臆病な手を叱咤しながら、
頬を寄せた。
彼は、目を閉じなかった。
ただじっと、その深い森のような瞳で私を見上げている。
何を――考えてるの?
どくんどくんどくん……
ダメだ。
何も考えるな。