ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】
先週の撮影後、彼の要求に応じてしまったのは……失敗だった。
キスの後我に返って、転がるようにして部屋から逃げ出した、まではよかったんだけど。
一人になって落ち着いた頃、鮮明な詳細が蘇ってきてしまったのだ。
唇の感触。
舌の動きや、熱い眼差し……だけじゃなくて。
請われるまま、口を開けてしまった自分、とか、
彼のジャケットにすがりついた自分の手とか、
甘えるような喘ぎ声とか。
思い出したあれやこれやが、露わにしてしまった。
私の奥に燻り続けるそれを、きちんとしまい込んだはずのそれを。
全然足りない……彼が、欲しい。
そんな、はしたないほどの願望――
「ぅあぁもうっ! なに考えてるのっ! しっかりしろ!」
「大丈夫か、真杉……」
低い声がして、机に打ち付けていた頭をガバッと上げた。
その先には、若干引き気味の新条部長がいて。
「ぶ、ぶちょうっ! あ、はは……おおおお疲れ様、です……」
尻すぼみに体も声も小さくしながら、頭を下げた。
は、恥ずかしい……