ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】
落とした視界へ、パサッとA4サイズの紙が差し出された。
「お前、週イチで2時間くらい、なんとかならないか? これに出てほしいんだが」
これ? と首をひねりながらパワーポイントで作られた薄い冊子を受け取る。
「IT戦略セミナー? あぁ、勉強会ですか?」
社内で告知があったから、話は知ってる。
定期的に開催される会社主催の勉強会で、社員は無料で参加できる。
今回のシリーズは、IT社会の新しいビジネスを模索しよう、という内容で。
参加しようか迷ったけど、応募者多数で結局諦めたのよね。
「お前が参加してくれないか?」
「え? でも確かこれ、坂田が……」
希望出してたの、覚えてるけど。
「新規のクライアントをつけたから、あいつは当分手が離せないだろう。営業部代表で、お前が行ってきてくれ。他の仕事とバッティングした時は、誰かにフォローさせるから」
パラパラとめくってみると、前からちゃんと勉強してみたいと思っていたことばかりだし。
たしかに、興味はある。
「はい、じゃあ――」
よろしくお願いします、と口にしようとした時だった。
ざわっ……――
フロアの空気が揺れた、ように感じた。