ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】
――きゃあっあれ誰? 芸能人っ!?
――写真撮るっ!? 撮っていいかな!?
――どっかで見た気がしない? 雑誌かな。
女子社員の悲鳴に似たささやきが、波紋のように広がっていく。
誰か、有名人でも来たんだろうか?
たまに、インタビュー取材の場所を提供することもあるからな、とキョロっと視線を動かしてみると――
「っ……!?」
ありえない人物を見つけてしまい。
がばぁっと勢いよく、キーボード上へ上半身を伏せた。
ちょちょっとまって……
ここ、私のデスクよね? 社内でしょ?
指さし確認した後、もう一度そろそろと、パソコン越しに顔を出す。
夕方近くなり、出先から戻ってきたメンバーで埋まり始めた営業部。
彼らの視線を一身に浴び、フロアを闊歩する長身の男性がいる。
隙の無い完璧なビジネススーツ姿のその人は――……何度見ても、間違いない。ライアンだ。
頬のガーゼもとれて、アザもほとんど目立たなくて。
だからもう、キラキラオーラ全開っていうか、いつも通り色気駄々洩れって言うか……
いやいや、そこじゃなくて。
そもそもなんで、彼がここにいるの?