ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】
「来たか」
短い部長の一言を聞きとがめた私は、「え?」と視線を上げた。
「俺が呼んだんだ。新規の仕事を頼もうと思ってな」
新規の?
し、仕事?
「あぁそれから、ちなみにそのセミナーの講師もあいつだから」
は? 講師っ?
焦りながら書類をめくれば――確かに「講師/ライアン・リー」の文字がある。
なんで? なんで、講師?
だって告知には確か、どこかの大学の先生だって……
頭の中はもう、大混乱だ。
わけがわからない。
いや、今はそんな詮索より、とりあえず――
「ぶ、ぶ……部長、やっぱり私、これには参加――」
「できないなんて言わないでくれよ。うちの部の未来を担う、有望な社員にはぜひ受けさせろと、上からお達し来てるしな。期待してるぞ」
ええっ?
唖然とする私の肩をポンと叩いて、部長は靴音を響かせ、離れていく。
そして。
「よう、いらっしゃい。こっちだ、会議室を空けてある」
軽く手を挙げてライアンを出迎え、促した。
――絵になるなぁ。くっそムカつくくらい。
――男前ツーショットいただきました!
――眼福眼福♪
自分に集まる注目をものともせず、翡翠色の眼差しは悠然とフロアを見回し……私を捕えた。
「っ……!」
とっさに顔を伏せ、パソコン画面に集中してるふりを装う。
どくんどくんどくん……
滲む汗を意識しながら、石のように体を固くして。
彼がどんな目でこっちを見ていたか、考えないようにした。