ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】

這うようにしてなんとかフロアの隅へたどり着き、休憩スペースに設置されたベンチへ崩れ落ちるように腰を下ろした。

「うそでしょ……」
頭を抱えて、そのままかきむしりたいのをぐっとこらえ、うぅ……と呻く。

どういうことよ。
新規の案件に、セミナーの講師にって……
いつの間にそんな話に……?

オオタフーズの仕事が終わって、顔を合わせる機会もなくなって、
このまま彼が日本を離れる日を待つ。
そういう予定だったのに。

どうして接点が増えるようなことになってるわけ?

まさか、私に会うために彼が何か……とか。
いやいや、さすがにそれは、自惚れすぎだと思うけど。
にしても、このタイミングはまずすぎる。


「大丈夫か? 気分悪いのか?」

のろのろ顔を上げると、「何か飲むか? 奢るぞ?」と自販機にコインを入れようとしている坂田がいた。

「ううん、今はいいや、ありがとう」

「そっか」と軽く頷いた彼は、気を悪くした風もなく私の隣に腰かける。
「お前、最近顔色よくないぞ。ちゃんと食ってんのか?」
「ん、ちょっとストレスと寝不足……って、それより坂田!」
「お、おおう?」
びくつく腕に、ガシッと縋り付いた。

「来月のセミナー、受講希望出してたよね? あれってやっぱり――」
やっぱり、坂田が受けた方がいいんじゃないかな。新規のクライアントなら、私も手伝うから。そう続けようとして――


「あぁあれ。お前がそんなに受けたがってたなんて知らなかったよ」

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