ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】

「でもこれで、お前ますます忙しくなるよなぁ。やっぱ断るかぁ」

ため息交じりの声が、私の思考を遮った。
「断るって、何を?」

「んー……オレのクライアントの提携先なんだけど、一件新規のとこがさ、お前ご指名で仕事を頼みたいって言ってきてて」
「私を、指名?」
「Eトレーディングってとこ。お前の噂、クリエイターの誰かから聞いたらしくてさ。ぜひ真杉さんにって言われて」
「Eトレーディングって、貿易関係よね。アジアに強い」

重たい頭をふりふり、ようやくどこかのビジネス誌で読んだ記憶を引っ張りだす。
確か、たたき上げの社長が奮闘してる、みたいな記事だったような気がする。

返事を迷っていると、結構必死、って表情を浮かべた坂田がこっちを不安げに伺ってる。
たぶん、大口のクライアントからの紹介で断りにくいんだろう。

しょうがないな、って苦笑しながら頷いた。

「大丈夫よ。話聞いてみて、内容によっては誰かにフォロー頼むし」

案の定、「そっか、助かる!」と顔を輝かせる坂田。
「部長にはオレから話しとく。でも無理はすんなよ? フォローはオレに任せろ」

「ん。了解」

「じゃあな、お前はもうしばらく休んどけ」

その後姿が視界から消えると、自然にふぅぅって重たい息が漏れ、肩が落ちた。

正直なことを言えば。
今は、仕事に集中できるか自信がないんだけどな……

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