ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】
1. 僕のフィアンセ~ライアンside

覚えているのは、プラタナスの並木道。


――漢字はおもしろいよ? 覚えるのは、難しくない。


その人は笑いながら言って、隣へしゃがみこむとぼくの手から小石を取り上げた。

――例えば……どうして鳥は空を飛べると思う?

どうして……?
ぼくは、小貝(シャオベイ)の小さな体を思い浮かべた。

ええと、羽根があるから?

――そう。背中に翼があるから……この漢字は「飛」ぶ。
ほら、そう見えてこないかい? 

地面に書かれた「飛」(フェイ)という文字を見下ろしていると……ふと軽やかな羽ばたきが、聞こえた気がした。

ハッと顔を上げると澄んだ黒い瞳とぶつかって、びくりと肩が揺れた。


――すべての漢字には意味があるんだ。古代の人からのメッセージだよ。素敵だと思わない?

そんな風に笑いかけてくれる大人は、初めてで。
ぼくの心臓はとくとくと、大忙しで動く。

どうしよう、早く何か返事をしなきゃと。
ひどく焦って……なんて言ったんだっけ。

何か頓珍漢な……そう、たしか。
「ぼくも翼があれば、空を飛べるの?」

脈絡のない問いを、でもその人はバカにしたりしなかった。

そして、教えてくれたんだ。
とても……素敵なことを。ええと……

あぁ、思い出せない。
あの人は、なんて――……

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