ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】

「いくつになっても、たとえシワだらけの老人になろうとも、恋に身を焦がすのは、人としてあるべき姿。真の愛を知ることなく天に召されていくなんて、神への冒涜ですよ」

どこの舞台のセリフだよ、と呆れてしまうくらいサムが熱っぽく訴えると、
樋口は「いやいや、真の愛は知ってまーす」とヒラヒラ手を振った。

目つきがすでに、ちょっと危うい。

「うちのぶちょーは、婚約までした恋人がいたんですよー。でもフラれちゃったんですよねー」

「え、そうなのっ?」
「そうなんですか!?」
食いつくラムと南波へ、樋口は得意げに赤い顔で頷いた。

大河原は、苦虫をかみつぶしたような、という日本語がぴったりの顔で、そっぽを向いている。
彼の酒癖の悪さは、どうやら知っていたらしい。

「ぶちょーはね、よく言えば一途。悪く言えば執念深いんですよー。まさかあの大ヒット商品が、自分へのオマージュから生まれたものだとか、知ったらドン引きじゃないですかー彼女もー」

「ほう、オマージュ。日本語で言うと賛辞、尊敬ってとこかな。それは一体どういうこと?」
フランス語が登場したからか、またしてもサムが興味を示す。

「いや、ですからねー、メインハーブですよ」

メインハーブか……そういえば選考会の時。
あの商品の誕生には、高尚な目的とはかけ離れたいきさつがある、とか言ってたっけ。


「ほうほう、あの素晴らしい商品が特定の女性へのオマージュだと?」

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